第18話 BM対インスタントまたは『まぐれの一作』 岩井笙韻

さて、コーヒーでも入れましょう。どちらが良いですか。

   ブルーマウンテン
   インスタントコーヒー

 普通はブルーマウンテンですよね。味がよく分からなくてもインスタントコーヒーよりは良いはずだと思うでしょう。
 しかしですね。入れ方を間違えてしまったらどうでしょうか。どうも、名人の入れ方というものがあり、適当に豆を買ってきてもおいしく入れられるとは限らないようなのです(最も、一昔の話ですが、ブルーマウンテンの生産量よりも、日本のブルーマウンテンの消費量の方が多いということを聞いたことがありました!つまり、かなり偽物があるということ)。
 その点、インスタントコーヒーは良いです。なんと言っても、飲むときにそんなに期待はしないので。何か暖かいものが飲みたいと思うけれど、豆をひいたりするのも面倒、すぐに飲みたいと言うときにはうってつけ。少しくらい味が悪くとも間に合います。
 しかし、これは私がよく経験することなのですが、一年に一回や二回はインスタントコーヒーが異常にうまい日がある。少し前にコーヒー専門店で飲んだブルーマウンテンよりうまい!どうしてだろうか?いつもと同じインスタントコーヒーなのに。
 それはたぶん、インスタントコーヒーとその日の湿度、温度、砂糖の分量、自分の体調その他諸々が絶妙にマッチして最高の味に仕上がったとしか言いようがない。そして、その味を次の日に出そうとしてももうダメなのです。
 ここから出せる結論は、


   質が劣っても、条件させそろえば、質の高いものに負けないものが出来る


ということでしょうか。
 このことは書についても言えるように思います。習っていて、なかなか先生の手本のようには書けないのに、ある日突然、良いものが書けてしまった。まぐれか!その証拠にもう二度と出来ない!しかし、その書の素晴らしさ、とても自分が書いたとは思えない。
 稽古場で添削を受けていて、怒られてばかりいるのに、その時ばかりは先生が驚いてしまった。「もうこれ以上できないから採っておきなさい。」と、言われたことがあるでしょう。
 もしも才能というものがあり、自分に才能がなくても、才能がインスタントコーヒーくらいのものであっても、何かの条件が整うと、びっくりするようなものが出来るのです。反対に、才能のある人の字はいつもあるレベルに達しています。しかし、本当にきらめく条件がなかなか出来ないことが多い。普段の出来では、インスタントコーヒーのまぐれの一作に負けてしまうのです。
 あなたがブルーマウンテンかインスタントコーヒーかは実はよく分かりません。何となくインスタントコーヒーじみていてもある日突然飛躍する人もいるのですから。だから、才能があるかどうかに悩むよりも、自分が良い条件の下で書けるようにすることを考えたらいいでしょう(このことの先を考えてみると、自分が病気だったり、怪我をしていたり、あるいは心の悩みが絶えないような状態だったとしても、何かの条件がそろうと、予想も出来ないようなものが作れる可能性があるということにならないだろうか?)。
 でも、どうやったらその条件が分かるのでしょう?
そう言われてもよく分かりませんね。しかし、確かに言えることは、


   書きたいと思った文字があったら必ず書くこと

   書きたいと思ったときには必ず書くこと

   書きたくないときでも、5分でも単純な手習いをしておくこと



これを逃してはいけません。これが条件作りに大きな力となります。後は、どんどん書いていくと、ある枚数をこなした後で、これまでの自分の書とは全く異なる書に変身することがあります。いつそうなるかは分からないし、期待して出来るものではないのですが、書きたいものを沢山書くことがその変身を可能にすることは確かです。私も、何回か経験しています。
 実は、書は、『イメージを文字に託して表現する』というほど単純なものではありません。もっと遙かに深いものなのです。少なくても書が好きで習っているなら、まだ自分にも未知の領域があり、書に関わることでその領域が発見できるかも知れないという期待を持って進んで欲しいものです。

 

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